2.配当率低下リスク
配当率が低下する原因は、賃料収入の減少・賃貸費用の増加という「事業収支上の要因」と、「増資による希薄化」があります。

「増資による希薄化」は、コントロールされていて、他の投資商品との利回り比較から容認される範囲内で行われますので、投資家にとってリスクというよりは、得べかりし最大利益の減少ということになります。

賃料動向について見ると、オフィスビル・マーケットの好調によりオフィスビルはしばらく堅調ですが、商業施設や住宅等の用途については慎重に考える必要があります。

<オフィスビルの賃料動向>
オフィスビルの空室率低下によって、再び賃料上昇が起こっていますので、今は、JREITのオフィスビルセクターはフォロー状態です。
少し前までは、契約改定の際の賃料下落とテナント退去がリスクとなっていましたので、以前とは状況が大きく異なってきたセクターだと言えます。
但し、市場の好調に乗って、競争力を超えた賃料値上げを推進している銘柄もありますので、これらは、何れ調整される可能性があります。
JREITのような仕組みでは、賃貸市場が弱含みの時は防衛策により安定化を図ることに専念出来ますが、強含みの時には中長期の安定性を損なう収益上昇を推進してしまう恐れもあります。
従って、資産運用会社が中長期視点で賃料設定を考えているか、短期的な成長を図るために賃料水準を引き上げようとしているかは、JREITオフィスビルセクターの選別のポイントだと言えます。

<商業施設の賃料動向>
JREITが保有する商業施設に、大規模、又は、中型のショッピングセンターが増えてきました。 更に、核となるテナントにはイオンとイトーヨーカドーに集中していますので、これらのスーパーによる店舗統廃合の動きがJREITの商業施設セクターの収益変動要因になっています。(店舗統廃合によるテナント退去によって賃料収入が途絶える)
現在の3次産業(サービス小売業)はチェーン化による寡占の進行で大手企業間の競争になっていますので、各企業は店舗統廃合等のリストラが成長戦略の要になっています。
従って、消費動向といったマクロ経済よりは各企業のリストラといったミクロな動きによって配当金の減少も予想されますので、JREITの保有する商業施設が増えるほど、配当率低下リスクは高まると考えられます。

<賃貸マンションの賃料動向>
元々、賃貸マンションは賃料の変動性が最も小さい賃貸不動産ですが、最近のJREITでは賃料を上限まで引き上げようとする動きが強くなっています。
オフィスビルや商業施設とは違って、賃料負担は個人の家計部門になりますので、賃料の引き上げは結果としてテナントの異動を加速することになります。 賃料引き上げを不満としてテナントが退去しても、直ぐに次のテナントが決まれば問題はありませんが、空室期間が長くなれば、逆に配当金の減少に繋がります。
賃貸マンションの持つ賃料の安定性を犠牲にして一時的に内部成長を図ることは可能ですが、この様な手法は長続きしませんので、今のJREIT賃貸マンションの配当率安定性はやや低下していると考えられます。

<ホテルの賃料動向>
欧米と比較すると日本のホテルの宿泊料はやや低いとの見方もありますが、日本では温泉旅館などの強い競合相手が居ますので、強気一辺倒では収益が不安定になります。
元々、宿泊施設を不動産投資対象とするのは、日本の宿泊業界の現状を見ると時期尚早でもありますので、オルタナティブ投資の範疇で考えておくのが賢明です。

次に、「賃貸費用の増加による配当率の低下」という懸念もあります。
現在、各銘柄では建物管理費用等の削減に努めていますので、通常の賃貸コストの上昇についての心配はありませんが、修繕費用(リニュアル工事費用を含む)の支出についての注意が必要です。

◇建物修繕費用  
修繕費用には、計画的な修繕と、日常的な修繕がありますが、修繕費用を支出しないことがベストではありません。 建物・設備は年数と伴に経年劣化しますので、劣化程度を緩和したり、初期性能を維持したりするには修繕が必要となります。定期的な修繕を行っている建物と、修理という考え方で対処している建物とでは、テナントの満足度も違いますし、実際の見栄えや機能にも差が生じます。
ビル専業会社などでは、社内基準で機械部品等の耐用年数を定めている場合が多く、実際の機械耐用年数よりも早い時期に交換するなどの予防修繕の考え方で建物性能の維持に努めています。ビル等の管理では、予防修繕の考え方が管理の質を向上させる事にも繋がりますので、管理に対する考え方も重要なチェックポイントになります。
反面、経費抑制のために、修繕を先送りしたり、部品交換時期を遅らせるということも行われますので、投資家にとっては分かり難い部分です。修繕の先送りは短期的にはさしたる弊害はありませんが、中長期的には資産劣化を早め、ある時期に多額の修繕費用が発生することにもなります。
従って、長期保有を前提としているJREITでは、修繕費用を必要費用として定期的に支出していること、そして修繕時期などの基準をチェックすることが必要なのです。

◇リニュアル工事費用
リニュアル、またはリノベーションとも言いますが、内容的には修繕項目も含みます。
一般的には、空調設備を個別空調に変更したり、トイレを改装したりする等の内装を新しくする場合が多いですが、必ずしもリニュアル工事費用を回収できる賃料アップが期待できるわけでもありません。実際の例を見ていると、稼働率向上やテナントの引き止め策として実施するケースが多く、費用対効果という点では分かり難くなっています。
一方、当面はテナントが安定していると安心し、テナントニーズに応える努力を怠ると、契約更新時に賃料減額を要求されたり、突然退去通告を受けたりもしますので、疎かにはできません。
ファンドが実施するリニュアル工事は、内容と考え方、そして目的の解明が必要ですので、これについても本サイトでは取り上げていく予定です。

以上、配当率の低下リスクは短期的な見方と中長期的な見方では異なりますので、保有資産ごとのPM業務のチェックが必要です。 現在は、各銘柄ともPMレポ−トの開示はしていませんが、今後はPM業務にも焦点を当てて、 投資家の中長期的利益という観点で分析評価を行っていきたいと考えています。
  << 戻る   次へ >>


Copyright(C) SYC Inc. All rights reserved.