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2022. 7.22.Up Dated.
REITの利益相反

 エスコンジャパンリート投資法人の資産運用会社が、利益相反によって金融庁から3ヶ月の業務停止処分を受けました。
業務停止処分と言っても全ての資産運用業務が停止される訳ではないという見方もありますが、REITへの業務停止処分はかなり重いものと受け止める必要があります。
以前からREITの物件取得では利益相反の疑いのあるケースもありましたが、立証困難で見過ごされていましたので、今回の処分は当局の快挙と言えるかもしれません。
今回の業務停止処分はREIT全体への警告の意味もあったと思いますが、REITの中には背に腹は代えられないとして利益相反が疑われる物件取得を行う投資法人があります。
先日、サムティ・レジデンシャル投資法人が増資に併せて物件取得を発表しましたが、スポンサーからの取得がメインで、19物件中5物件が鑑定価格を上回る価格で取得すると発表しました。
REITの物件取得は上限価格と認識されている鑑定価格を下回る価格での取得が一般的ですので、上限価格を上回っての取得は異例となります。
なぜこのようなケースが生じたのかは、エスコンジャパンヘの業務停止処分が効いている為だと考えられます。
常に鑑定評価を依頼する資産運用会社は不動産鑑定会社にとっては上得意ですから、鑑定評価の際には資産運用会社の意向を忖度していたはずですので、取得価格以上の鑑定評価額を出すのが常識だったと言えなくもありません。
それが今回の業務停止処分によって、資産運用会社、鑑定評価会社双方ヘの牽制になり、サムティの物件取得の価格の折り合いが付かなかったのではと思われます。
その結果サムティの採った方法は、下手に鑑定会社に圧力を掛ければ業務停止処分もあり得ると考え、特に罰則規定のない鑑定価格を上回った取得に踏み切ったものと考えられます。
勿論上限価格を上回る取得にはそれなりの説明が必要ですが、これには触れていませんので、強行突破を図ろうとしていると考えられます。
ではこれに対してどう対応するかですが、既に金融庁はスポンサーと投資家との利益相反事例については摘発してREIT業界には警告を発していますから、これを関係各位がどう受け止めているかを見ることになると思います。
先ず投資家が増資に応ずるか否かが問われます。 投資家に一定の見識がないのであれば、当局の動きは意味がありませんから、今回の増資の可否が注目になります。
次に物件取得資金の一部を融資する金融機関の動向が問題となります。 不動産融資では独自に適正価格を算出して掛け目によって融資金額を算定しますので、今回のケースでは融資そのものが問題視される可能性があります。
万一将来REIT相場が大幅調整局面に入ってサムティ・レジデンシャル投資法人の存続が危うくなって、返済に支障が出るような事態になれば、融資金融機関は不可抗力では済まされないと思います。
それ所か早急に既融資分についても見直す必要があり、債権保全手段を講じなくてはならないとも言えます。
金融庁は、今回の業務停止処分によって投資家と金融機関へボールを投げたと言えますので、そのボールをどのように受け止めるかが問われていると思います。


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