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2020.11.13.Up Dated.
外国人の土地保有について

 先日、政府関係機関より国内の外国人土地保有状況について報告がありました。
ここで気になったのは再生可能エネルギー施設用地と見られる土地が全国で約1,700ヶ所が外国人保有になっているとの内容です。
この調査で報告されている内容が真正保有者なのか、又は登記名義人なのかは不明ですが、恐らく登記名義人調査がメインではないかと考えられます。
日本の不動産所有権は、真正保有者(実際に売買して所有権を得た所有者)と登記名義人(登記簿に記載されている所有者)とは異なっているケースが多いのです。但し、一般には不動産売買を行ったときは登記名義人を移す登記も行いますが、これは登記が第三者対抗要件になるからです。
換言すれば、売買は自由だけれど、登記を移しておかないと第三者に所有権を主張する根拠が弱くなるという事です。
実際の例で言うと、地方の山林等の登記名義人は明治時代のままで、現在の所有者は曾孫になっていたり、又は第三者に売っていたという例も数多くあります。
私も若い頃このような土地の整理作業をしましたが、先ずは登記名義人の確認から始めて相続人探しを行い、相続人の子供等から土地の真正保有者を聞くことが度々でした。これだけの作業でもかなりの時間を要しますから、今回の報告が登記名義人ではないかと考えられるのです。
本題は、外国人がどれだけ日本の土地を保有しているかですが、買った土地に住まないのであれば占有状態を実現出来ませんから、第三者対抗要件となる登記上の所有権移転は必須なので、恐らく外国人は登記を移していると考えられます。
話はそれますが、外国人に対する日本不動産取得の制限については古い法律があって一応一定規模以下(多分300㎡以下ではなかったかと記憶しています)しか許可されません。
昭和40年代に、ある外国大使館から麻布の土地を購入したいという話がありましたが、面積が600㎡程度であったので、これは法律の制限を超えると思い、色々と調べましたが、許可申請の方法も不明で、どういう手続きが必要なのかも分からず、結局は当時の勤務先企業では扱わないという結論になりました。
このように昭和40年代の不動産業界では外国人の不動産取得は難しいと考えられていたと思います。
次に、今回の報告が仮に登記名義人調査だとしたら、これはある程度分かります。
皆様も経験されているかも知れませんか、不動産登記が動くと税務署の調査が来ます。これは不動産を売った方には不動産譲渡所得税、買った方には不動産取得税が課税される為ですが、本来は申告制ながら、知らない人も多いので、税務署から確認が来ます。これで税務署は真正保有者を特定出来る訳です。
従って、外国人が土地を買って登記も移したという前提で考えますが、実はこれも大変な作業を伴っているのです。
登記名義人から相続人の調査は全国にまたがる可能性も高く、それぞれの相続人と面会する必要がありますが、誰でも容易に会ってくれる訳ではありません。
更に、最終的には相続人全員から印鑑証明書・住民票・戸籍抄本も集めなくてはなりませんから、こうなるとかなり信用のある組織か人でないと務まりません。
私も若い頃長崎市周辺でこういう作業もしましたが、幸いにも当時長崎市は三菱重工の城下町風でしたので、同じ三菱の会社という事で、誰もが好意的で簡単に必要書類が集まった事を覚えています。
しかし恐らく今日ではこんなことは通用しませんから、弁護士等を使うしかなかったと思います。
実務を考えると、外国人が山林原野を買うには、仲介不動産屋、司法書士(登記調査)、弁護士、税理士(不動産関係税の申告業務)のチームが必要になりますから、取得関連費用はかなり嵩みます。(場合によっては土地代と同額にもなります)

これだけの費用を投入して山林原野を購入する目的は何でしょうか。
色々な目的は想定できますが、第一には利益の追求だと言えます。 再生可能エネルギー用地として購入であれば、この土地に太陽光発電パネルを設置して売電するという事になりますが、前述のようにかなりコストを投入することになったはずなので、売電ではコストは回収できません。
ではどうするかと言うと、第三者に太陽光発電システムとして売却して利益を得ることです。
元は山林原野であった土地に動産である太陽光パネルを設置したものを誰が買ってくれると考えたのかが気になります。
当然ながら、REITは不動産が主たる投資対象ですから、このような施設は取得しませんから、想定されるのは私募ファンド又はインフラファンドと称する主体ではないかと推測されます。
これは邪推ですが、国交省はインフラファンドの積極推進省庁で、東証にインフラファンド市場も創設させました。日本全国で1,700ヶ所になるような施設を購入できるポテンシャルがありそうなのは公開市場に上場されているインフラファンドですが、幸いにもインフラファンド市場は低迷していて、これらの施設を次々と購入できている訳ではありません。
東証等から何度かインフラファンドを取り上げてくれるよう要請を受けましたが、私は最初からこの仕組みは胡散臭いと思っていましたので拒否していました。 今になって考えてみると、何となく筋書きが浮き上がってきたような気がします。


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