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2019.11. 1.Up Dated.
分配金競争

 REITの出す分配金が増えています。

   上場銘柄平均予想分配金 上昇率
2018年12月末 208,326円 -
2019年3月末 223,657円 107.36%
2019年6月末 225,266円 108.13%
2019年9月末 250,368円 120.18%
2019/10/25 257,804円 123.75%

これは配当型投資商品であるREITにとっては喜ばしいことではありますが、詳細に見ると投資家にとって必ずしも良い事ばかりではありません。
分配金は最終的なアウトプットなので、これに至るまで色々な仕掛けが含まれていますから、その内容を精査して、投資家にとってどういう影響があるのかを考えなくてはなりません。

仕掛け1: 借入金レバレッジの活用
低金利の借入金を使ってレバレッジを掛ければ、分配金が上昇しますから、より金利の低い短期借入金の導入が増えています。
勿論、一律に短期借入金導入が悪いとは言えませんが、短期借入金を返済する原資を持たず借り換え前提での借り入れも目立ちます。

仕掛け2: 保有資産の売却
投資法人によっては毎期に不動産売却益を出して分配金を嵩上げしている例も増えています。

仕掛け3: 賃貸事業費用のコストカット
REITのように長期保有する主体では、適切な建物管理維持費用の支出が必要ですが、元の分配金原資が増えない為にコストカットによって利益を嵩上げしている例も散見されます。

仕掛け4: 利益超過分配金
資本の払い戻しに該当する利益超過分配金は、所謂タコ足配当ですが、流動比率が低いにもかかわらず、恒常的に行っている投資法人もかなり存在します。
流動比率が50%以下になっていて、手持ち現預金が少なくなっている状態で利益超過分配金を出し続ければ、財務内容は極端に悪化しますから、長期的に見ると問題です。

仕掛け5: 自己投資口取得
投資法人が自らの投資口を市場から買って消却すれば発行済投資口数が減って、その分の分配金が増えます。これも利益超過分配金と同義で、自己投資口取得は投資家の資金を分配金に付け替える形です。

仕掛け1、2、3を使って分配金を押し上げるという状況は2006年~2007年のファンドバブル期にもありました。
当時は、市場取引している資金の多くが短期売買中心であった為に、目先の分配金を上げれば投資口価格が上昇して、売却益が得られるので、投資家も投資法人も分配金額だけを気にしていました。
翻って今の状況をみると、直近9月のREIT市場の月間売買高は約3兆円まで増えていますが、過去を見ると、通常の状態では月間売買高は2兆円が上限でしたから、約1兆円分の取引資金が増えています。その性格は短期筋の資金だと考えられますから、結局はファンドバブル期と同じようになっていると言えます。
前述の仕掛けを使うことは全てが悪い訳ではありませんが、目先に拘れば長期的なマイナス要素を増やしますから、長期保有の投資家にとっては迷惑な部分もあります。
このように表面的な面だけを見ていては適切なREIT投資は出来ないという事になりますが、このような指摘も分析も少ないので投資家には容易には到達しないのだと思います。


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