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2019. 5.10.Up Dated.
消費税増税と財政構造

  今秋に予定されている消費税増税については延期との見通しも出始めていますが、その予想は一旦置いて、別の角度から国の財務構造を見てみます。

REITを例にとって解説します。
日本ビルファンド投資法人は最大のREITで、資産総額(B/S上)は1兆250億円に達しています。
そして借入額は借入金と投資法人債合計で約4,200億円ですが、年間の収入は740億円になっています。
借入金と比較するには、収入だけでなく、返済原資となる経常利益+支払利息が約160億円になりますから、それぞれの数字で借入額を割ると、
① 借入額/収入比 5.68倍
② 借入額/返済原資 26.25倍
となります。
返済原資との比較が現実的ですので、全額返済するには、無配当でひたすら26年間返済を続けなくてはならなくなりますから、当然投資法人は存続できなくなります。
然し、実際には日本ビルファンド投資法人は市場から最高の評価を受け続けています。
その理由は、保有資産から生じる収益の確実性と安定性に加えて、資産運用がしっかりしているという投資家からの信頼感です。
日本ビルファンド投資法人の投資家構成は、
金融機関 54.8%
国内法人  6.5%
国内個人  3.8%
外国法人 33.1%
になっていて、7割弱は国内投資家、海外投資家は3割強とみることも出来ます。

次に、この日本ビルファンド投資法人の例に倣って、日本の財務内容を見ると、
国債発行残高 1,100兆円
但し、国の借金に該当する金額は 約1,600兆円
国の総資産   1京円

国の年間収入 約98兆円(一般会計年間歳入額)
経常利益と見なされる額  74兆円

この数字で同様の比較をすると、
① 借入額/収入比 16.3倍
② 借入額/返済原資 21.6倍
同様に、経常利益全てを返済に回しても22年弱掛かる計算になりますが、この間は社会保障費や公共事業費等も支出できませんから、当然国であっても破綻します。
然し、日本ビルファンド投資法人と同様に、国の収入の確実性と安定性は非常に高い(必要ならば増税出来る)のと、日本の政治的・社会的安定性は先進国中でNo.1とも言えますから、REITの例でみれば同様に高い評価になります。
そして、投資家構成に当たる国債の引き受け先を見ても、国内投資家が大半を占めていますから、日本ビルファンド投資法人より安定した投資主構成になっているとも言えます。

このように国もREITも同じように、先ず安定した財務を構築し、成長を続けられれば、市場から高い評価を得られる訳です。
結論を言うと、現在の国の財務状態では増税必至ではないという事です。
勿論もっと歳出を増やしたいのであれば、増税してその分を確保したいとは思うでしょうが、何を増やそうとするのか、そして既存支出の削減はしないのかという事を明らかにする必要があります。
それよりも問題なのは、国が成長を続けられるか否かであり、停滞を続ければ投資家の信頼も低下しますから、ここでアベノミクスが登場した訳が分かります。
国の成長とはGDPの推移で見られますから、現在の約500兆円が漸増するような方向に持っていく必要があります。
その為に既存企業だけの努力ではなく、新興企業やベンチャー企業が次々と起こることで、GDPと雇用を増やすような循環にならなくてはなりません。
またREITの都心型商業施設の運用で見られるような、競争力の落ちたテナントショップを出して、売上を上げられるようなテナントに入れ替える必要がありますから、国も企業や利益団体の淘汰を図らなくてはなりません。(岩盤規制の撤廃が必要になる)
換言すれば、行うべき色々な努力が行き詰まったので増税しますというのであれば、話の辻褄だけは合いますが、これでは投資家の信頼は一挙に低下します。
このように考えると、日本が増税するタイミングは希薄とも言える財政的事情ではなく、世界全体や日本を取り巻く環境を見て投資家の信頼を維持又は上げられるような時期を選択するのが政治の役割だと言えると思います。


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