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2018. 9.28.Up Dated.
通商政策の本質

 トランプ大統領の国連演説や日本との関税交渉、そして米中貿易摩擦等、国際社会では話題が豊富ですが、何れも米国が火付け役です。
米国の言い分としては、貿易赤字によって国内の中間層が崩壊しつつあるとのことで、先ず各国との貿易赤字の解消を図り、米国内の富を増やすというシナリオのようです。
対中国の通商政策もこの流れの中にはありますが、安全保障を絡めているので、通商政策というよりは政治的制裁という側面が強くなっています。
このように考えると、何となく米国の行動も説明が付きますが、問題の本質には行き当たりません。
米国が抱えている最大の政治的課題(今回の通商政策の背景になっている問題と同じ)は、政治の重要機能である富の再分配が上手くいっていないことにあります。
米国は富裕層(数的には全体の20%程度)の保有する富が全体の60%程度にまで集中していて、先進国では最も所得格差の大きい国になっています。更に、富裕層はタックスヘブンを活用して所得に見合った税金を合法的に節減していますから、税収にも偏りが生じています。
換言すると、今日の米国政治の問題は富の再分配機能を調整出来ていない点だと言えます。これではいくら国の富を増やしても、所得の偏りが拡大するだけで中間層の崩壊は止まりません。
富の再分配が上手くいっていないのは歴代の大統領も認識していたようですが、米国では富裕層が強い発言力を持っている為に、簡単には手を出せず、有効な政策は打ち出せませんでした。
これに対してトランプ氏は、国内の問題を諸外国に転嫁して、問題の本質をすり替えました。
国富の再分配の本格的調整は出来ませんから、通商政策で糊塗する政策に特化した政権だと言えます。

一方、安倍首相は国連演説で日本は自由貿易の旗手となるという宣言をしました。
この日本の通商政策に対して、自由貿易か又は一定の制限付きの保護貿易かという経済的視点で論じるのは本質から逸れてしまいます。
通商政策は技術的な手法であって、更に言えば資本主義や共産主義といったイデオロギーの戦略論よりも、最終的には政治による国富の再分配機能が全てを左右します。
従って日本が自由貿易の旗手になるとしても、それに合わせた富の分配をどのように調整するかに掛かっています。
今日では、日本を含めて先進国では経済専門家が活躍していますが、政治オンチの人が増えているようで、これが問題の本質を隠してしまいます。
米国が失敗した富の再分配を日本はどのようにするかが、これからの日本を変えますので、この分野で活発な議論が為されるようになれば日本の将来は開けるだろうと考えています。


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