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2013. 8. 9.Up Dated.
地価公示と鑑定評価
 
 先日、知人の不動産鑑定士より、地価公示廃止の動きがあるので、国交省に存続の要望を出すために意見を聞きたいとの話がありました。
40年以上も続いている地価公示制度は既得権化していますから、俄かに信じ難い話で、 果たして本当なのかという疑問も湧きましたが、私は以前から地価公示不要論を展開していますので、その旨伝えました。
相手は古い付き合いの知人なので、私の持論は周知していて、若い時から変わらないと引き下がってくれましたが、ついでに不動産鑑定士の現状についても話をしました。
私からはREITに義務付けられている不動産鑑定評価について異論を呈しましたが、一般の不動産鑑定士にとっては、REITの鑑定評価は蚊帳の外であって、大手鑑定会社の保護策としか思えないと言う意見でした。
確かに、REITの決算毎の鑑定評価は数社独占の形態を採っていますから、固定した関係では馴れ合いが生じてしまいそうです。
また、不動産鑑定では賃料動向も評価要素の一つになりますが、これについて鑑定評価で触れられている例は見当たりません。
尤も、実賃料が開示されていない現状では、使えるサンプル数にも限りがありますから偏ったデータになってしまう可能性もあり、賃料動向に言及するのは無理だとも言えなくはありません。
新規賃料ならばある程度の動向は把握出来ますが、継続賃料となるとデータは皆無に近いと言えます。僅かにREITだけが契約更改時の賃料減額率を公表していますが、元の賃料は開示されていませんから、継続賃料の適正賃料水準を客観的に把握することは不可能です。
これはREITにとっても大きな問題です。
適正賃料水準が分からなければ、長期で且つ安定した運用計画が立てられませんし、外部成長の際の物件取得時の収益利回り算定も曖昧になります。
こういう現状を踏まえると改革していく必要がありますが、REITでさえもフリーレントを多発し、実際の賃料水準が分かり難くなっています。 REITでは会計監査も義務付けられていますが、監査法人はこの問題はスルーしていて、フリーレントに制限を加えていません。
本来は、一定期間以上のフリーレントがあれば、その分賃料が減額されたとすべきであり、投資家にその旨に分かるように開示する必要があります。
更に、地価公示ではそのような動向を織り込んではおらず、賃料動向を把握する材料にもなっていないという現状がありますから、日本の賃貸市場は常にグレーゾーンのままです。
このように考えると、日本の賃貸市場は非常に閉鎖的で且つ曖昧な状態が温存されていると言えますが、これについて関係する業界は目を瞑っています。
関係当局となる国交省も業者保護しか眼中にないようで、国民生活にとって重要な適正賃料を推し進めようという気持ちもなさそうです。
このように考えると、いっそ地価公示を廃止して、もう一度原点に還って考え直すべきなのかも知れません。

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