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2012. 3. 2.Up Dated.
REITの物件売却
 
 最近REITの物件売却が増えています。 資産運用会社からは保有資産の入替えと発表されていますが、中には取得時点に遡った問題も炙り出しています。
例えば、日本ビルファンド投資法人が昨年12月に売却した「NBF須田町ヴェルデビル」は2003年12月に三井不動産等から23.8億円で取得したオフィスビルですが、取得当時でも立地を勘案するとやや疑問の残る物件でした。取得後も稼働率が安定せず、2010年に入ると大半が空室の状態になり、2010年下半期からはテナントが全て退去してしまいました。その結果売却に踏み切った訳ですが、売却時の簿価は敷地内駐車場を追加取得したこともあって33.21億円と取得価格の1.4倍になり、売却価格32.5億円に対して、71百万円のマイナスで、譲渡費用込の売却損は1.97億円になりました。
尤も、見方によっては32.5億円で売却できたのは大成功だとも言えなくはありません。
売却先は、三井不動産ではなく清水建設ですが、この価格で引き取ってくれた事は投資法人にとっては大変ありがたいとも言えます。
この取引では仲介業者はナシとなっていますが、日本ビルファンド投資法人の資産運用は三井不動産が受けていますから、恐らくその筋で動いたのだろうと推測されます。
次に、日本リテールファンド投資法人が長年重荷になっていた「博多リバレイン」を2012年2月末に売却しましたが、簿価57.6億円、売却価格18億円でマイナス39.6億円となり、譲渡費用込で40.01億円の売却損を出しました。
この物件は、2003年3月に三菱商事系ファンドより126億円で取得し、その後持分の半分を72.2億円で東伸開発に売却し、この時は8.02億円の売却益を計上しました。
今回の売却先も東伸開発で、通算すると31.99億円の売却損になりますが、この物件も取得時に大いに疑問を持った取引でした。
この物件については、開発事業段階で三菱商事の開発建設部門が参画を検討しましたが、収益見通しが甘く、プロジェクト参画を断念したという経緯があります。私も当時このプロジェクトについて聞いていましたので、担当部署に福岡進出は止めた方が良いと進言した記憶があります。その後、三菱商事の開発建設部門が再編成され、どういう経緯か分かりませんが、このプロジェクトに手を出し、そしてREITへ売却を図りました。 この時も、以前の担当部署に居た人間は取得に反対でしたが、日本リテールファンド投資法人はこういう声には耳を貸さずに取得を決定しました。

一般的に将来の事は誰にも分からないとも言えますが、不動産の良否についてはプロであればある程度予測が付きます。今までもREITの売却物件を見ていると、「やはり」と思えるケースが多々あります。 恐らくその取得には社内でも疑問を呈する人も居たと思いますが、こういう声よりも別の力学が働いて取得したというのが実態だと考えられます。
REITに完璧を求めるのは酷ですが、やはりプロとしての良識は求められますし、また不動産の持つ欠点は長い時間には必ず露呈されるというのが鉄則ですから、こういう経験を糧にして、資産運用会社は中立な姿勢で物件取得を判断して欲しいと思います。

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