コラムトップ
2010. 6.18.Up Dated.
負ののれん代と増資

 先日、ユナイテッドアーバン投資法人の資産運用会社を招いて個人投資家セミナーを行いましたが、 その中で負ののれん代の具体的活用方法の説明がありました。
一つの例ですが、負ののれん代(B/S上は剰余金)を増資時の希薄化対策に使う方法が示唆されました。
従来は、増資の希薄化対策としては、期初に物件取得を行うか、期中に物件売却を行うかの方法が採られましたが、これに加えて、負ののれん代から補填する方法の提案です。
この手法については、新生アドバンス・レジデンス投資法人の増資でも発表されましたので、より具体的になっていますが、特に物件取得時期の自由度が高まるのがメリットだと言えます。
増資を行う時は、その期の期初に物件取得を行わないと新規取得物件の収益が丸々貢献しませんので、増資を計画する前に、ブリッジ・ファンドやスポンサー企業に物件をプールしておく必要が生じました。
これが意外と大変な作業なので、資産運用会社は苦労していましたが、負ののれん代があると、期中の任意の時期に取得も可能となりますし、場合によっては、翌期でも構わないという事になります。
合併説明会で、このような説明を行ったのはユナイテッド・アーバン投資法人が初めてで、前5例では、物件売却損の償却や漠然とした活用方法が示唆されたに過ぎません。

この意味では、REITの合併のメリットがより明確になってきたと言えますが、一方で、増資に伴う問題を考える必要もあります。
REITは恒常的に増資を繰り返す事業体ですので、毎回希薄化対策を採るというのは無理だとも言えます。
投資家は希薄化によって配当金が減少することを忌避しますが、1口50万円(計算上の額面価格)の投資口に対して毎期2万円程度の配当金が必須なのかは疑問です。
配当利回り商品として考えれば、年5%弱でも十分なはずですから、従前に6%超の配当利回りが出ている場合は、特に希薄化対策を採らなくても良いとも言えます。

尤も、この考え方に立つには増資価格の決め方から見直さなければなりません。
今までのように市場取引価格によって増資価格を決める方法では、計算上の額面価格で配当利回りを算定する方法は通用しませんので、株主割当増資のような方法をベースにして、増資を行う事を検討する必要があります。
株主割当増資であれば、取引価格を下回った価格での増資も可能ですから、投資法人側が額面価格を意識して増資を計画する事が出来ます。
払込資本利益率の推移を見たり、自己資本比率をチェックしたりしながら増資のタイミングを計る事が出来ますので、論理的に組み立てる事が可能となります。
恒常的に増資を繰り返さなくてはならないREITが、市場取引価格というコントロール出来ない価格に準拠して計画すれば、偶然性に左右されてしまいますので、必ずしも合理的ではありません。
この考え方については、私は以前より提唱していますが、中々受け入れられません。
その背景には増資関係者の利害も絡んでいると思いますが、一方で、REITと一般事業会社の違いが分からない為だとも言えます。
実際にREITの財務分析を行うと、一般事業会社との違いがより明確に浮かび上がってきますが、これらのデータを見ればREITがどのように動かなくてならないかが分かりますので、この意味でも今年は財務分析によるREITの把握という視点を広めていきたいと考えています。


 
Copyright (c) SYC Inc. All rights reserved.