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2010. 3. 5.Up Dated.
非上場REIT

 先日、野村不動産オフィスファンド投資法人と野村不動産レジデンシャル投資法人の資産運用会社である野村不動産投信が非上場REIT(野村不動産プライベート投資法人)を立ち上げるとの告知がそれぞれの投資法人のHPで発表されました。
この投資法人は、REITと同じ投信法に基づいて設立する投資法人ですが、上場はせずに、適格機関投資家を対象にした私募でエクイティを集める形になっています。
そして投資口の換金の為に、オープンエンド型(REITはクローズドエンド型)にしています。
平たく言えば、個人投資家は対象にせずに、年金等の資金を誘引する目的で設立した不動産私募ファンドのアレンジだと言えます。
HPで公表されている設立の背景は大別すると次の2点になります。
@ 投資市場には多様なニーズが存在している
A 上場REITは取引市場での投資口価格の変動率が高く、定期的に時価評価を行う機関投資家にとっては元本変動リスクが大きくなるので、インカムゲイン投資としては必ずしも最適ではない
という趣旨になります。
そしてこの2点は、十分に合理的な考え方ですし、状況認識も間違っていないと思います。

そこで次に気になるのは、具体的にどういう仕組みなのか、そして組成不動産の内容はどのようになるのかですが、これは未だ分かりません。
私募となるので、詳細な内容は公表されないだろうと思いますが、ここからが問題だと考えられます。
現在のREIT市場を見ていると、機関投資家もREITを十分に理解していないと思われますし、投資判断の為の補完情報が少ないという認識も持っているようですから、非上場REITであれば、その問題が倍加します。
それでも「まあ良いか」と考えて投資する適格機関投資家が多いと見込んでいるのでしようか。

実は、日本の不動産証券化市場(REIT及び私募ファンド)が低迷しているのは、この構図が邪魔をしているからだと言えます。
不動産証券化商品に投資をする投資家に対して、もう一方の当事者は資産運用会社になります。
従って、現状では投資家は資産運用会社とのコミュニーケーションを通じて判断をするしか方法がありません。
資産運用会社の見込みが客観的に見て合理的なのかを判断するのは、投資家の自己責任になっています。
もし資産運用会社が不動産運用のプロだとしたら、プロの意見を忖度出来る程の能力がなければ投資家は判断ミスのリスクを常に背負いこみます。
これが果たして対等の関係なのでしょうか。 それとも、投資家はプロの資産運用会社が常に誠心誠意投資家の利益の為だけに脇目も振らずに邁進してくれると信じているのでしょうか。
もしそうだとしたらこれは宗教と同じですから、他人がとやかく言う事は出来ません。
ここまでの説明で「現状の投資は変だ」と思わない人も多いかも知れませんが、中には納得する人もいるとは思います。

「それでは本質的な問題は何か?」ですが、 投資家と資産運用会社の対の関係しかない状態を放置している事に帰結します。
仮に投資家と資産運用会社の対の関係の他に第3者が存在し、その第3者が専門の立場で独立した意見を述べる体制が出来れば、バランスが取れます。
投資市場は、本来はこの三位一体が機能している事で成り立つはずです。
僅かな期間で私募ファンドが興隆と破綻を経験したのは、この三位一体機能が全くなかった為だとも言えます。
何故機能が備わらないのかは、投資家が真剣に求めていなかった事と、資産運用会社が忌避した為だとも言えます。
そしてこういう構図を見てみない振りをしている関係者が、それを後押ししています。
この問題は、日本にREITが導入された時から指摘はありましたが、未だに整備は行われていません。
これでは、外から見れば、投資商品の善し悪しよりも、もっと大きなリスクが潜んでいると見るのが普通です。
それでも、国内ではこのリスクを見ない考えないようにしているというのが実態です。
それでも回っている内は良いですが、回らなくなったらどうするのでしょう。 その時は、関係者が神仏に祈るのでしょうか。
 
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