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2010. 2.26.Up Dated.
REITの物件売却と減損

 先日、日経新聞に東急リアル・エステート投資法人が保有していた「菱進原宿ビル」の売却についての記事が掲載されていましたが、やや本質から外れた内容になっていました。
「菱進原宿ビル」は、2008年6月に東急リアル・エステート投資法人が私募ファンドから14,160百万円で取得した築20年弱のオフィスビルで、取得時の想定利回りは2.85%(想定稼働率74.1%)でしたので、取得後の稼働率が上昇すれば3%台前半の利回りになる物件です。
2008年というと既に不動産取引市場は弱含みとなっていましたので、この取得は2006年頃の不動産価格がピークの時の買い方と何ら変わりません。
取得時の鑑定価格も13,400百万円でしたので、価格を5.7%上回っての取得でした。
このときの不動産状況で、この程度の利回りで築20年弱のオフィスビルを、そして鑑定価格まで無視して高値で取得する程の積極的理由はありませんし、到底プロの判断とは思えない状況認識の甘さが感じられました。
そして取得から僅か1年半程度で、評価額が簿価の59%になり、減損処理の可能性も生じた為に、日本プライムリアルティ投資法人へ取得価格の約59%の8,400百万円で売却しました。(売却損は約71.7億円)

もしこれが一般の事業会社であれば、当然社内で責任を追及する声が挙がりますし、下手をすれば裏の事情まで勘繰られる事にもなります。
一方、日経新聞は減損会計の方へ論点を移していますし、取得の妥当性については何ら触れられていません。
REITは投資家のための仕組みですから、投資家の利益を第一に考える必要がありますが、日経新聞の記事は論点をずらして、投資家をないがしろにしていると言えます。
僅かな期間で減損処理の可能性が生じるようなディールというのはREITでは滅多にありませんし、減損の脅威で売却した例は、旧聞ですがジャパンリアルエステイト投資法人の「エリクソン新横浜ビル」ぐらいしかありません。
こう考えると「菱進原宿ビル」は触りたくありませんので、普通は黙って保有し続けますが、減損処理と課税という圧力で表に出さざるを得なくなりました。
REITという仕組みを考えれば、資産運用会社が下手な事をすれば、それが明るみに出るというのは必要なメカニズムです。
資産運用会社が素直に全貌を明らかにして、非を認めるということは中々期待出来ませんから、他律的にそれを促す方法は必要です。
それにしても、僅かな期間で71億円もの損失を投資家に付け回しして、それが追及されないとしたら、こんな楽な仕組みはありません。
そして、提灯記事を書いてくれる頼もしいマスコミまで居るというのが、何とも情けない現実です。
 
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