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2010.1.22.Up Dated.
個人投資家のアプローチ

 REITの合併を見ていると、どの銘柄も合併後にタイミングを見て増資を行いたいとの発言があります。
これは、合併によって新たな投資法人に衣替えをする訳ですから、早い時期に市場の信認を得たいとの思惑もあると思いますが、この機会に改めて考えて欲しいのはREITの原点です。
元々REITは、主として個人投資家向けに作られた仕組みです。
それまでの個人投資家向け投資商品は、株式投資のようなキャピタルゲイン投資で、且つ、ハイリスク・ハイリターン商品しかありませんでしたので、もう少し穏やかな商品特性を持ち、長期投資スタンスで見る新しい投資商品として誕生しました。
背景には、貯蓄一辺倒だった個人金融資産を投資市場にも誘引することも期待されましたし、又、個人の金融資産形成にも資すると考えられました。

然しながら、現実を見ると、REIT誕生時には個人の投資熱が高まったものの、その後は地銀等の機関投資家が主流となり、個人投資家のシェアーは後退していきました。
そして銘柄側も、この流れを座視し、結果として上場時期が古いほど個人投資家のシェアーが低下しているという状況になっています。
このコラムでも何度も警鐘を鳴らしてきましたが、これに応じた動きをしたのは一部銘柄に限られています。
そして今回の合併を見ると、事前に個人投資家向けに説明会を開催したのはアドバンス・レジデンス投資法人と日本レジデンシャル投資法人だけで、その他の銘柄は、事前説明はアナリスト説明会で代用し、後は投資主総会での賛否を問う場だけです。
老舗銘柄の中で比較的個人投資家対策に熱心であった日本リテールファンド投資法人さえ、合併の経緯や考え方を直接訴えるような機会は設けていません。
又、先日のビ・ライフ投資法人の決算発表会では、被合併投資法人となるニューシティ・レジデンス投資法人の投資主総会で投資家より買い取り請求があるかも知れないとの想定をしていましたが、このような想定をするのであれば、事前に個人投資家向け説明会を開催する等の対策も講じて欲しいと思います。
既に大口投資家には説明をしていると思われますから、買い取り請求を想定しているのは個人投資家であると考えられますので、その対策は投資法人の義務だとも言えます。
手法も、合併側の資産運用会社の責任者が、Face to Faceで、直接個人投資家に訴えるような機会を作るべきなのではないかと思います。
合併を機会に誰に向って投資をお願いするのかを考え、具体的行動が欲しいものです。
合併に際しては、金融機関や大口投資家の顔色を窺う機会が多かったことは理解しますが、本来は、個人投資家の支持を得るのが王道です。
合併後の増資は、既存の大口投資家にお願いするだけでなく、広く個人投資家に買ってもらえるような形にならなければ、合併が成功とは言えません。
既に多くの投資法人の上位投資主の投資口保有比率が50%を超えていますので、更に寡占化が進むようであれば、当局にとってもREITを政策的に支援するような大義名分も薄れます。
REITは投資家の為の器ですが、その投資家とは一部の投資家ではなく、不特定多数の投資家を指します。しかし実態は、一部投資家のものになりつつあります。
投資口価格の問題よりも、こちらの状況の方がREITの将来にとって遙かに重要な問題なのではないかと考えています。

 
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