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2009. 5.22.Up Dated.
REITと不動産鑑定制度

 毎月何処かの銘柄が決算発表を行いますから、常に決算発表データを収集して様々な表を作成しており、この作業をもう8年近く続けています。
最近の決算で目につくのは期末価格(期末時点の不動産鑑定価格)の低下で、オフィスビル、レジデンス、商業施設等の全てのセクターで期末評価額が下がっています。
しかし、期末価格とは一体何を表しているのかという点は明確でなく、正確に言うと、不動産鑑定評価作業を行う人の判断による不動産価格という事になります。
この不動産鑑定価格が値下がりしているのは、勿論、実勢不動産相場の影響があるのですが、具体的には、不動産鑑定価格を算出する際の期待利回りが上昇している為です。
即ち、買い手(又は、投資家)が期待する利回りが上昇する事で、不動産鑑定価格が下がるという仕組みで、これは社債・国債等の取引市場と同じ考え方です。

然しながら、このような捉え方が、果たしてインカムゲイン狙いの長期投資であるREITに適しているかというと疑問が残ります。
本来のREIT投資家が知りたいのは、その時々の不動産鑑定額ではなく、長期の視点で見た不動産価格ですので、半年毎に変わる鑑定価格で、何を見れば良いのかが明確ではありません。
投資家がどのような見方をすれば良いのかを明確にせずに、期末評価額の作成を義務付けたのは国交省のようですから、国交省は本来説明義務がありますが、現在までの所、明確な見解が示されていません。

REITと不動産鑑定の経緯については、仄聞の域を出ませんが、元々は、REIT創設直前に、地方の鑑定協会支部からの提言により、時の監督官庁であった国土庁が押し込んだと聞いています。
その為、煮詰めた議論がないままに、不動産鑑定制度が導入されてしまったとも言われています。
当時は不動産鑑定業者からも不動産鑑定不要論が出されるなど、不動産価格に対する新たな見方や考え方が噴出した時期でしたので、鑑定協会もREITどころではなかったとも聞いています。
それが今では、制度が独り歩きしてしまい、投資家に見方を示さいないまま、投資家の負担で決算毎に不動産鑑定を義務付けています。
このような中途半端な制度は他にも多くありそうですから、REITに限った事ではないと言われればそれまでですが、私は個人的にはこういうのは嫌いです。
但し、中途半端が悪いのではなく、それを改善していこうという努力を怠るのが問題だと考えていますので、そろそろ国交省も頭を絞る必要があるのではないかと考えています。
 
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