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2008.12.12.Up Dated.
REITに曙光

 政府の金融政策発動によって、REITの資金繰りが少し楽になりました。
日本政策投資銀行が最後の貸し手として登場した事で、デットのセーフティネットが出来ましたので、ニューシティ・レジデンス投資法人の破綻を契機にしたREITのリファナンスリスクがかなり緩和されたと言えます。
これによりエクイティ市場も反発し、東証REIT指数も150ポイント上昇しましたが、未だこれで良いという訳ではありません。と言うのも、景気の落ち込みは来年が本番になりそうですが、企業はかつてと違い雇用を真っ先に調整するようになっていますから、この負の連鎖を加速しないようにする政策が必要です。
既にバブル崩壊と団塊の世代の定年によって、企業の全雇用者数は減少しているはずですし、一方で、人口構成からみれば今後の労働人口の不足は不可避です。
それにも拘わらず、ここで大幅な雇用調整が行われば、複雑な社会問題を惹起する可能性があります。
然しながら、企業はただ息をひそめて嵐が通り過ぎるのを待つという消極的な姿勢ではいられませんから、コストダウンないしコストカットが求められますが、問題はその手法と順序です。

前述したように、企業にとって雇用調整は戦略的にはマイナスの面が大きいので、他の手法で業績の落ち込みをカバーする方が上策です。
それには先ず、保有資産の売却が考えられますが、今の不動産市場では買い手が存在しませんから、REITが買い手として復活する必要があります。
自社ビル等を保有している企業はセール&リースバックによって、一時的に特別利益を確保出来ますから、首尾よく保有不動産が売却出来れば一息付けます。
更に、税制面でもこのような保有資産売却に対して、複数年度に亙って売却益を分割計上させる方法も検討に値します。
企業にとって固定資産等の売却は、売却年度にしか効果がありませんが、雇用調整は効果が継続します。景気の回復時期が不透明な時では保有資産の売却は当面を凌ぐ策にしかなりませんから、税制面から効果を継続させれば雇用調整と同じ効果が期待出来ます。
これと同様の効果をもたらすアップリートという仕組みがありますが、今のREIT市場の流動性と投資口価格の不安定さを見れば、導入は時期尚早です。
次に、中小企業対策としては、やはりレジデンスREITの復興が鍵となります。
不動産ファンド全盛時では中央区の工場や問屋倉庫等が軒並み賃貸マンションに変わりましたが、レジデンスREITに買い余力が付けば、この手法が一定度復活します。
また産業ファンド投資法人の投資対象不動産は、多くの企業にとって朗報です。
仮に20年程度の定期借家契約によって工場機械設備・研究所等をセール&リースバックすれば、当面の資金繰りを支えますから、産業ファンド投資法人の復興も必要です。
そしてこのような循環に入れば、REITは賃料を上げずに、場合によっては若干引き下げる余力も出ます。(既存のポートフォリオNOI利回りより高い利回りで買えればです)
そして賃料ダウンは企業の損益分岐点を引き下げますから、これは雇用調整と同じ効果を生みます。

REITを使って不動産の状況をこのように変えて、企業業績と景気の自律回復を待つというのが経済政策として有効だと考えられます。
外需依存度の高い日本経済では国内政策だけでは限度がありますが、欧米に比べて傷の浅い日本は、先ず凌ぎ切るという事を目標にした政策が必要ではないかと考えます。
 
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