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2007. 8.17.Up Dated.
企業年金連合会の不動産開発

 8/15付の日経新聞朝刊のトップに、企業年金連合会が不動産開発を始める、との記事がありました。長期投資による安定収益を狙って、先ず、初年度(2008年度)に6,500億円の投資を予定しているとの事です。
記事によれば、企業年金連合会がJREITに対してやや批判的な投資姿勢を持っているような印象を受けましたが、本来、不動産による長期投資はJREIT投資が最も優れています。
プロでも難しい不動産投資を、素人が行って成功するのは、ラッキーでしかなく、まして長期で見ればほとんど失敗になる確率が高いのです。
JREITのようなプロ集団でさえ、開発型による不動産投資には慎重で、原則として稼動不動産に投資することを優先しています。
更に、現在はオフィスビルを初めとして、価格がピークに達していますし、新規募集のオフィスビル賃料も上限になっています。
こういう時期に素人が不動産開発を始めるというのは、無謀と言うか、狂気の沙汰だとも言えます。
これが一般事業会社のことであれば、一々文句を言うつもりもありませんが、多くのサラリーマンの大事な資金を預かっている企業年金連合会であれば、他人事ではありません。
記事の内容からすると、何処かの不動産会社と提携するようですが、投資リスクは企業年金連合会が取るようですから、不動産会社に甘い汁を吸われるだけになる不安もあります。
現在の不動産市場では、最後のババ抜きが近づいていますから、ババを纏めて引き受けてくれる所が出てくれば関係者は喜びます。
しかし、自分のお金でババを引く人は居ませんから、他人のお金を運用していて、且つ、最終リスクの引き受け者の曖昧な主体が適任です。
企業年金連合会程の運用主体であれば、数百億円程度の損失は微々たるものかも知れませんが、営々と積み立ててきたサラリーマンにとってはとんでもない話です。
どうしてこんな話がこの時期に飛び出してきたのかは分かりませんが、市場の趨勢や不動産の先行きが分からないからこそ出来るのだとも言えます。
こんな不動産投資をするぐらいなら、数年前にJREITに注目して少しづつでも投資をしていれば、充分な運用益を出せたはずです。
JREITの将来も読めなかった人達が不動産投資を行って成功するはずがありません。

こういう話を聞くと、以前大手金融機関から不動産融資関連の相談を受けた時の事を思い出します。
その金融機関は色々な不動産案件に融資していましたが、何れもお粗末な内容だったので、「どうしてこんな案件に融資したのか」「せめて融資前に相談してくれれば」と厳しく言ったことがあります。
その時、相手は非常に困惑して色々と言い訳をしていましたが、「素人考えで不動産を扱えば火傷をします」と釘を刺しました。
その後、この金融機関は融資前に価格査定調査と簡単なデューデリを依頼してくるようになりました。そのせいかどうかは分かりませんが、不動産バブルの時も比較的軽傷で済んだようです。
私もかつて多くの大型不動産開発に取り組んできましたが、不動産開発事業は神経をすり減らします。可能な限り将来の変動を予測し、考え、悩み、そして行動に移します。
プロという自覚があれぱこそ、素人の何倍も考え、そして全てのノウハウを注ぎ込んで成功を目指しました。
手前味噌になりますが、大型不動産開発事業は誰でも出来る仕事ではありません。
恐らく、大手デベロッパーでも、数人程度の人材しか居ないだろうと思います。 そんな事業に素人の企業年金連合会が手を出すのは無謀の極みだと言うのが私の意見です。
 
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