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2006. 6.29.Up Dated.
J-REITと海外不動産
 
 6月28日付の日経新聞に国土交通省が、JREITに海外不動産の取得を解禁する方向で調整に入ったとの報道がありました。 この報道を受けて各方面からの問い合せが増えていますが、その多くは解禁の趣旨が分からないというものです。
今回の報道では「解禁」と書かれていますので、誰かが要望し、これを受けて規制を緩和したとのニュアンスに取れますが、一体誰が要望したのでしょうか。
投資家から見れば、海外不動産への投資は為替リスクを持ち込みますし、資産の質の判断をより難しくしますので、ミドルリスク・ミドルリターンというJREITの性格から離れてしまうことになります。 昨年より続いている耐震偽装、違法建築、エレベーター事故等の物件の性能やコンプライアンスに関する問題についても、海外不動産ではチェック不可能な面もありますから、昨今の不動産や建物に関する問題が噴出する度に、JREIT株価が変動する状況を見ると更に心配が増すとも言えます。
一方、逆に見れば、海外の物件ならば国内の物件のように問題が露呈することが少ないだろうという見方も出来ますし、又、海外不動産であれば国土交通省管轄の事項で続く不祥事からも逃れられるという考え方もあります。
次に、JREITの資産運用会社から見れば、スポット的に海外不動産を取得しても実質的な資産運用業務を行う体制が取れないという問題もありますし、投資家のリスクを増大するような不動産を取得して株価を下げたくないという思惑も働きます。

投資家にとっても好ましくなく、又、真面目に資産運用業務に取り組もうとしている資産運用会社にとっては負担となるような海外不動産の取得を誰が要望したのか不可思議です。消去法で考えれば、JREITが海外不動産の取得を行なえば誰が潤うのかで推測すると、もしかしたら海外不動産を保有しているオリジネーターやオリジネーターが運営している私募ファンドではないかとも勘繰れます。JREITは投資家を主人とした仕組みですので、投資家の要望が優先されますが、投資家も要望しない仕組みを行政が推進するのはお門違いですから、何処かの大口投資家が要望を出す事は考えられます。

国土交通省は投資市場には直接関与しませんから、深く考慮はしないでしょうが、今日の投資市場では投資家と言えば先ず個人投資家です。 昨年より実施している投資家セミナーのアンケートでは、JREIT投資はしても株式投資はしていないという個人投資家も少なからず存在します。 JREITを株式投資とは違う穏かな投資という認識で参加している個人投資家も多いでしょうから、このような事を機会にJREITから離れてしまえば、それでなくても減少の一途をたどっている個人投資家が更に減ってしまいます。
このような事を考えると、JREIT発足当初の考え方からは大きく離れてしまうのが今回の報道を受けての感想です。
JREITは個人金融資産の受け皿として、又、ハイリスク・ハイリターンの投資商品しかなかった日本の投資市場に新しいカテゴリーの商品をという意気込みで始まりましたので、もう一度JREITの原点をしっかりと見詰める見識が行政にも欲しいと感じました。
 
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