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フロンティア不動産投資法人 (8964)
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6.当事者間の損得について
先ず、売却側のJTについて考えて見ると以下のようになります。

<JT側のFRI売却に伴う利益>
@ 資産運用会社の株式譲渡益: {(X)−(450百万円)}
A 今までのFRIへの物件売却益: {(1,231億円)−(JTの簿価)}
B オリジネーターとして保有している投資口価格の売却益: {(Y)−(45.1億円)} 

※ JTが保有しているFRIの投資口(8,200口)は、スポンサー交代後2年間、又は、現在開発中の旧上田工場のSC竣工までの何れか早い日までは、原則として保有するとされていますので、市場での売却は当面ありません。


上記のうち、金額的には物件売却益が最大になり、@とBは物件売却益に比べれば、1桁下の金額になっていると考えられます。
従って、JTは既に利益は充分に回収していて、今回の件は、JTにとっては当事者能力が乏しくなってきたJREITのスポンサーから上手に撤退出来るというのが最大のメリットだと言えますし、逆にマイナス面はほとんどないと考えられます。

<三井不動産側の譲受けによる利益>
三井不動産が支払う対価は、実質的には資産運用会社の全株式を取得する費用です。この金額は未上場株式の譲渡計算手法によって算出されていると考えられますので、会計上はフェアーな価格だと思われますが、内容的には非常にメリットのある譲受けになったと考えられます。
7.三井不動産商業プロパティマネジメント株式会社との関係
 三井不動産は、オフィスビルを投資対象とする「日本ビルファンド投資法人」、賃貸マンションを投資対象とする「日本アコモデーションファンド投資法人」の2銘柄に続いて、商業施設を投資対象とする第3の投資法人を立ち上げる予定で、05/12/27に資産運用会社の三井不動産商業プロパティファンドマネジメントを設立しています。
然しながら、この時期での設立では既に商業施設の取引価格が高騰していて、高い利回りでの物件取得は困難であったと想像されます。
従って、仮に、三井不動産商業プロパティファンドマネジメントが買い集めた物件で上場したとしても、恐らく配当金水準は12,000〜13,000円/口/期程度ではなかったかと推測されます。
また、現在のJREIT市場で商業施設銘柄の相対的評価が低い事を考えれば、上場後の運営にも難しさがあり、株価も期待した程上昇しない可能性もありました。
一方、FRIは既に7回の決算実績を持ち、配当金も17千円台/口/期のレベルに達していますので、この実績を引き継ぐ事は、新たな投資法人を立ち上げるより、遥かに有利です。
そのため、FRIの買収によって、三井不動産商業プロパティファンドマネジメントは解散し、新たな商業施設系投資法人の設立は中止となっています。
8.既保有物件の売却先の確保
三井不動産商業プロパティファンドマネジメントは解散しますので、JREIT上場に向けて準備し、取得していた物件の整理が必要となります。
然しながら、不動産市場では商業施設物件の価格は高騰し過ぎており、他への売却は難しい状況になっています。更に、不動産価格が下落基調にあり、金融事情もタイトになっている事から、私募ファンド等への売却もままなりませんが、FRIを買収した事で既保有物件の出口を確保した事になります。
実際に、 「三井アウトレットパーク入間」 「ララガーデン春日部」 「マックスバリュー田無芝久保」 「クイーンズ伊勢丹杉並桃井店」 「ウーヴ サカエ」 の5物件がFRIへの売却候補としてノミネートされています。
従前のFRIであれば、これらの物件全てが投資対象にはなりませんが、スポンサーの交代によって、FRIの投資対象に含まれることになったとも言えます。
恐らく、三井不動産側にとっては、これが最大のメリットではないかと考えられますが、逆に投資家にとって大きな問題を投げかける事になりそうです。
9.投資家側から見た問題点とチェックポイント
FRIのJTから三井不動産への売却は、双方にとってメリットのある取引である事は明白ですが、それが果たして投資家にとってメリットがあるのか否かは別問題だと言えます。

(1) 資産運用姿勢の変更
FRIの特徴であった超保守的な運用姿勢は、新生FRIではほぼ喪失となり、同じ商業施設銘柄である日本リテールファンド投資法人と同様の性格を持ち始めると考えられます。
従来、JREIT投資家の判断には、FRIに対して、JREIT全銘柄の中でも最も保守的な運用姿勢を持っている事と、オリジネーターがJT(旧専売公社)という信頼感の要素が大きく貢献していましたが、この2つの特徴は売却によって消滅するとも言えます。
従って、従来の投資判断は根本から見直す必要が生じるとも考えられます。

(2)ポートフォリオNOI利回りの低下の可能性
FRIのポートフォリオNOI利回りは、第7期で6.3%になっています。(期中取得のジョイフルタウン鳥栖を除いた数値)
このNOI利回りは、JREITの商業施設セクターではトップクラスの数値になっていて、日本リテールファンド投資法人の5.19%を大きく上回っています。
これが、FRIの相対的に高い配当金の原資になっていましたが、ノミネートされている三井不動産側からの物件取得によって下がる可能性があります。
三井不動産がノミネートした5物件の取得予定価格や想定利回り等は一切公表されていませんし、第7期決算説明会でも、資産運用会社の代表者は与り知らないと答えていますが、常識的に見れば、従前のポートフォリオNOI利回り以下での取得になると考えられます。
見方によっては、三井不動産側の譲渡益確保の思惑によって、かなり高い価格で取得する可能性すらありますから、今後の5物件の取得価格は最重要チェックポイントになります。

(3) 財務体質の変質の可能性
FRIはテナントからの敷金・保証金を活用することで、借入金を圧縮(第7期では短期借入金66億円のみでLTVは6.6%)していて、デッドを使ったレバレッジを利かさない真水に近い配当金を実現していましたが、今後の取得は借入金で賄う可能性があり、他銘柄同様レバレッジを利かせた配当金になる可能性があります。

(従前のFRIの考え方)
FRIは商業施設の持つ、元本毀損リスク(テナント退去による不動産価値の減少等)を考慮して、借入金を極力導入しない方針を持っていました。
仮に、借入金が無ければ、テナント退去に伴う元本毀損価値はそのままエクイティに反映され、逆に、資産価値の上昇もエクイティにストレートに帰属するという構造を維持する事で、元本リスクをシンプルにして投資家が理解し易いようにしていました。
これは、商業施設が本質的に持っている不動産価値のボラティリティを、分かり易くする財務構造を持つ事で、投資家に訴えるという考え方だとも言えます。

(4) 新たな中間経費の支出
スポンサーが三井不動産に交代する事によって、投資法人に新たな費用負担が加わることになります。「SCマネジメント契約」と呼ばれているもので、投資法人と三井不動産間で新たに契約を締結する予定になっています。最終的には、全保有物件が対象となりますので、資産運用報酬とは別立てで支払われると考えられます。
その金額は不明ですし、従来支出していたプロパティマネジメント・フィーとの関係も明確ではないので、どの程度の投資家の負担増になるかは分かりませんが、テナントとはネットリースが多い事を考えれば、この契約の有用性にも疑問があります。
 以上が投資家側から見た問題点とチェックポイントですが、これらの内容は何れ明白になります。発表後の株価を見ると、順調に上げているようですが、本来JREITは株式のように風評や憶測で動く商品ではありません。 論理的に考え、且つ、検証してから投資判断を下すべき商品だと言えますので、株価に左右されずに冷静に推移を見ることをお勧め致します。
また、JT側が第8期を激変緩和期間と設定した可能性もありますから、投資家はその意を汲んで動くという見識も必要かも知れません。
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