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2008. 3. 5.
フロンティア不動産投資法人 (8964)

 08年2月18日に、フロンティア不動産投資法人(FRI)よりスポンサーの交代が発表され、従来の日本たばこ産業(JT)に代わって新たにスポンサーとなる三井不動産に対して第3者割当増資を行う事になりました。
08年のJREITでは様々な動きが予想されていましたので、今回の件はその前哨戦とも言えますが、内容的には未だ不明な点が多いことと、今後の可能性についての見方が明確になっていないのでその部分を解説・検証してみたいと思います。
1.スポンサー交代の背景
何故、FRIのスポンサーをJTが降りることになったのかは、FRIの上場時の事情まで遡る必要があります。
そもそもFRIが上場した大きな理由の一つには、オリジネーターである日本たばこ産業(JT)の財務事情がありました。
FRIの上場は04年8月ですが、この頃のJTでは団塊の世代の大量退職が始まり、その退職金支払い原資の調達を必要としました。JTではその原資の確保のために保有資産の売却を検討しましたが、当時のJREITの規模では、当面の売却予定物件約700億円もの商業施設を買い取る力がありませんでした。(当時唯一の商業施設専門銘柄であった日本リテールファンド投資法人の資産規模は1,700億円程度でした。)
そのため、JTは自前でJREIT投資法人を立ち上げて、そちらに資産を売却することで資金調達を計るということになりました。
これがFRI誕生の大きな要因ですが、上場後もその方針に添ってJT保有の商業施設や工場跡地の再開発によるSCの取得に特化した投資法人として活動を続けました。
そして上場から4年を経た今日に至るまで、JTはFRIに約1,200億円の資産を売却しましたので、一定度の資金調達の成果を挙げることが出来ました。
勿論、今後も同様の方式で閉鎖工場の跡地開発による商業施設の売却を続ける予定はありましたが、「まちづくり三法」の成立による用途地域制限によって工場跡地への商業施設誘致が難しくなり、従前の手法で物件供給を行う事が出来なくなったのです。
このため、FRIの外部成長に黄色信号が灯り、当初予定していた上場から5年で資産規模2,000億円の達成が難しくなりました。 また、まちづくり三法による商業施設規制は、今後の工場跡地開発手法を根本から見直す必要もあり、このままではFRIへの物件供給を続けられないという状態に至りました。
元々、FRIはJTとのパイプラインによってしか成長出来ない投資法人でしたので、今後、JTでは支えられないと言う判断で新たなスポンサーを探して交代しようということになったと考えられます。
2.FRIはどのような投資法人であったか?
前述したように、FRIはJTの固有の事情によって設立された投資法人ですし、資産運用会社の人員もJTからの出向者によって占められていますので、他の投資法人のような積極的な展開は当初から想定されていませんでした。
その保有資産を見ても、大半が大規模郊外型SCですし、都心型商業店舗ビル等は一件もありませんので、資産運用では自らの身の丈にあった保守的な運用に終始していました。
また、JTの保有資産は、元を辿れば旧大蔵省保有の国有地でもあり、簿価も低いため、FRIが比較的高い利回りが得られるような価格での譲渡も行われてきました。
従って、一言で言うと、FRIはJTより割安な価格で資産を取得し、それを粛々と運用するという超保守的な運用姿勢を持った投資法人だと言えます。
このように考えると、FRIの堅実性と保守的性格は誕生の経緯に拠っているものであり、この特徴が市場に支持され、投資家の安心感に繋がったことで、堅調な株価を維持していたと考えられます。
3.売却先候補の選定について
 JTがFRIを手放す事情は前述の通りですが、誰に売却するかはJTにとっても重要な問題であったと考えられます。
FRIの資産内容を以ってすれば、私募ファンドや外資系ファンドを含めて買い手には事欠きませんが、JREIT投資法人である以上、売却後もJREITとして活動するという前提は必要だったと考えられます。
即ち、FRIをJREITとして存続させ、その後の外部成長も図ってくれるようなスポンサーという条件になりますから、以下のようになったと考えられます。

@ 商業施設を投資対象としている既存銘柄への売却
A 継続的物件供給力のある企業でJREITに関与している企業への売却
B ブランド力を含めて既存投資家に受け入れられる資質を持った企業への売却

@については、FRIに先行している銘柄で、郊外型SCを投資対象の主流としているのは日本リテールファンド投資法人しかありませんので、ここと合併してしまえば、JREITでは商業施設専門銘柄は1銘柄だけになってしまいますので、投資家の選択範囲を狭める結果に繋がります。
従って、AとBを考慮すれば、三井不動産、又は、三菱地所あたりしかありません。
この2社のうち、三菱地所が商業施設でJREITに進出してくるかは定かではありませんでしたが、一方の三井不動産が商業施設系REITの立ち上げ準備中という事は周知の事実でしたので、消去法的にも三井不動産へ傾いたと考えられます。
4.売却に際しての付帯条件があったのか
この内容は水面下での密室の協議になりますから、他から窺い知ることは出来ませんが、発表された内容を見る限り、大した条件は付けられなかったと考えられます。
唯一言えることは、第3者割当増資を行い、資産運用会社の保有株式を全株売却(08年3月24日予定)した後の第8期(08年1月1日〜08年6月30日)も引き続き現体制が維持され、現体制の下で決算を行い、分配金を支払うという事だけです。
即ち、第8期まではJT傘下のFRIとして活動を行うという事を言明していると言えますので、三井不動産傘下での本格的活動は第9期からと考えられ、所謂、激変緩和措置が採られたのが付帯条件だとも言えます。
5.投資法人売却スキームについて
スポンサーの交代は、実質的には資産運用会社(フロンティア・リート・マネジメント株式会社)の支配権の譲渡によって行われます。
資産運用会社は非上場ですので、オリジネーターが保有している株式を譲渡する事で支配権を譲渡しますが、この譲渡金額は公表されていません。
額面上でJTが保有しているフロンティア・リート・マネジメントの株式は450百万円ですが、勿論この金額の譲渡ではなく、恐らくこの10倍程度の金額ではないかと推測されます。
一方、投資法人の方は、三井不動産へ第3者割当を行い、14,600口を661,000円/口で増資しました。
何故、14,600口なのかは、第7期決算説明会で説明がありましたが、増資による投資口希薄化を受けても第8期の予想配当金17,900円/口が確保出来る水準を維持するためであったようです。
即ち、第3者割当増資によって、既存投資家に不利益をもたらさない(第7期の実績配当金は17,845円/口)ようにとの配慮だと説明しています。
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