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2007.12.25.
トップリート投資法人 (8982)

 トップリート(TOPR)は平成18年3月1日にJREITへ参入してきた30番目の銘柄です。
「トップ」という名前を冠したぐらいですから、当然JREITのトップを目指しているかという質問に対して、そこまでは・・・と当時の代表者の方は謙遜していました。
オリジネーターが、住友信託銀行、王子不動産、新日鉄都市開発の3社で、名門企業である王子製紙グループと新日鉄グループをバックにした銘柄ですから、そのブランドと意気込みを名前に冠した投資法人だと言えます。
当時のJREIT市場の評価基準を以ってすれば、このような銘柄は大口投資家好みですので、上場時の公募価格も55万円/口と順調なスタートを切り、その後も公募価格を下回ることなく一時は100万円/口近くまで上昇しました。
TOPRの上場時の組成資産は、オフィスビル6物件、商業施設1物件で、その後商業施設2物件と賃貸マンション1物件を追加取得しました。
市場はTOPRをオフィスビル主体の銘柄と見ていましたので、商業施設とレジデンスでの外部成長は必ずしも歓迎はされませんでしたが、当時のJREIT市場の勢いに乗じて順調に株価は上昇していました。

 ところが、平成19年2月22日に、突然、保有商業施設の「イトーヨーカドー東習志野店」のテナントであるイトーヨーカ堂から解約通知を受領する破目になりました。
この物件の取得は平成18年6月30日で、取得先はオリジネーター関連企業である 日鐵溶接工業梶i新日本製鉄の100%子会社)でした。
イトーヨーカ堂のSCとしての開業は平成6年12月で、既に10年以上の開業履歴を持っていましから、TOPRも安定収益資産として取得したと思われます。
イトーヨーカ堂との賃貸借契約は期間20年の普通借家契約ですが、イトーヨーカ堂のそれまでの比較的穏やかな店舗戦略とNOI利回り6.65%(第2期決算実績)という収益は魅力的に映ったと言えます。
従って、この物件の取得自体は資産運用会社の判断ミスとは言えず、仮にTOPRが取得しなければ別の銘柄が取得していたと考えられます。(TOPRはオリジネーターとのパイプライン契約を通じて独占的に交渉を行い取得しました)
イトーヨーカドー東習志野店のテナント退去の公表を行った後の株価は、90万円台/口から80万円台/口に下げましたが、JREIT市場の好調に隠れて未だ大きな痛手にはなりませんでした。
それが平成19年6月からのJREIT市場の調整局面によって、徐々に問題視されるようになり、平成19年8月31日に発表したテナント解約通知の撤回と賃料改定によって投資家の離反が始まりました。
賃料改定幅は従前賃料の35%減(売上歩合賃料を除く)となりましたが、この結果、配当金がそれまでの15千円前後/口/期のレベルから11千円前後/口/期まで低下した事が響いています。
これ以後は、JREIT市場全体の調整の中で、TOPRの株価はジリ貧を続け、 平成19年10月17日に初めてIPO価格を下回り、11月22日には397,000円/口の最安値を記録しました。


1.何故このような株価の動きになったのか?
TOPRの株価推移を見ると、イトーヨーカドー東習志野店のテナントとの問題が直接の原因になっていますが、その背景には投資家の不信感があります。

不信T: パイプライン契約によってオリジネーターから取得した物件であるにも拘わらず、テナント退去が通告されてもオリジネーターは何も対応しない

実は、この前後にJREIT保有の商業施設のテナント退去が頻発していましたが、何れもオリジネーターが買い取る等の措置によって、投資法人への影響を回避する例が続いていました。 それにも拘わらず、新日鉄が傍観した事で投資家の不信感が増幅したのです。
TOPRが取得したわずか8ヶ月後にテナント退去が通告され事で、売主は、その兆候を予め感じて敢えてTOPRに売却したのではないかという見方です。
そしてそれを新日鉄グループが看過した事で、TOPRをゴミ箱として利用したのではないかという不信感です。

一方、新日鉄側から見れば、JREITはオリジネーターから切り離された独立した投資法人ですから、そこまで面倒見る理由はないということかも知れませんが、私の推測では、新日鉄本体はこの事を深く考えることはなかったのだと思います。
これだけの顔触れのオリジネーターと比較的良質なオフィスビルを保有している銘柄の株価が40万円/口を切るというのは異常事態なのですが、その背景には、JREIT投資家が最も忌避するオリジネーターの敵前逃亡論があります。
この見方は、JREITの初期の頃に懸念されていて、投資法人に資産を移すだけで後は知らん顔をするというオリジネーターによって設立された投資法人の事を指します。
この懸念は、外資系JREITや私募ファンド系JREITに対して強かったのですが、まさか国内の伝統的老舗企業がその挙に出るとはというショックです。
このような投資家の思いは、日を重ねる毎に増幅し、その結果株価は遅れて下落していきました。

不信U: 資産運用会社の当事者能力への疑問

このケースでは、物件取得の実質的責任者である資産運用会社の危機管理能力が疑われています。
テナント退去通告からどのような動きをしたのかは定かではありませんが、オリジネーターに対しての協力要請の弱さとイトーヨーカ堂との交渉能力の低さを見透かされたとも言えます。
35%減の賃料改定という例は、通常の賃貸借契約では考えられないケースであり、このような前例は他へも波及する可能性があります。
先ず、TOPRが保有している「相模原ショッピングセンター」(テナントはイトーヨーカ堂)の賃料への影響がありますし、資産運用会社が弱腰と見られれば、もう一つの保有商業施設である「武蔵浦和ショッンピングスクエア」のテナント(ニトリとオリンピック)からも攻勢を仕掛けられる恐れもあります。
更には、他銘柄が保有する商業施設にも影響が及ぶ可能性があり、現に取引市場では商業施設銘柄の株価の下落幅が大きくなっています。
このようにJREIT全体にとっても大きな影響を持つSCの賃料交渉が、テナントの一方的ペースで進められた事は、資産運用会社に対して厳しい指弾があっても不思議ではありません。
この事件に因ってか、TOPRの資産運用会社であるトップリート・アセットマネジメントは平成19年7月1日付けで社長を含めた幹部の交代を発表しました。
後任の体制は再建屋的人材のようですので、不振に喘ぐTOPRの再建の為に送り込まれたとも言えます。(この体制変更はメインオリジネーターである住友信託主導で行われた模様)
この人事異動によって、投資家からの資産運用能力の不信感に対しては手を打ったと言えますが、新体制の下でテナント慰留工作と賃料改定を進めた事もその後の株価を下げた一因にもなりました。
但し、冷静に考えると、テナント退去を看過すれば、更に収益は悪化します。
後継テナントが決まる迄は賃料収入のない空白期間を覚悟しなくてはなりませんし、仮に後継テナントが見つかったとしても、改定後の賃料すら取れる見込みが立ちませんから、仕方のない決断だとも言えます。
他銘柄に言わせれば自爆覚悟でテナント退去を選択してくれた方が良いと言うかもしれませんが、それではTOPRが持ちません。
また新体制下でも、取得先の新日鉄グループからは何の対応も引き出せなかった事も響き、株価は続落していきました。


2.今後の対応についてと回復策は何か?
12月に入り株価は少し持ち直し50万円台に戻りましたが、依然としてIPO価格を下回っています。
一度投資家から不信感を持たれると容易なことでは回復出来ませんので、資産運用会社も甘い見通しは持ってはいません。
このままでは株価は、良くて60万円/口上限程度でしょうから、増資すら難しくなる事も理解していると思います。
又、個人投資家や大口投資家は株価急落によってかなりの損失を蒙りましたので、生半可な事では戻ってはきませんから、回復策には思い切った手段が必要です。
私は大博打を打つぐらいの覚悟が必要ですと言いましたが、それもあり得るという表情だったと見えました。
以下は私の一方的推測と期待に過ぎませんが、TOPRにとって必要な措置を考えると次のようになります。

回復策T: オリジネーターの交替

売却後わずか8ヶ月後にテナントが退去するような物件をパイプライン契約で提供して、何の責任も感じないオリジネーターは投資法人にとって意味がありません。
更に、今後このオリジネーターからの物件取得は色眼鏡で見られることになりますから、新日鉄グループをオリジネーターから外す事も考える必要があります。
現オリジネーターの新日鉄都市開発が必ずしも不動産事業に通暁しているとは言えませんから、外すことで特にマイナスはありません。決算資料では新日鉄都市開発は上位5テナントに入っていますが、これはマスターリース先としてのテナント順位ですのでPM会社の変更で済むはずです。
投資家の不信感を買った直接の原因であるこのオリジネーターを温存すれば、投資家の疑心暗鬼が続きますから、新たなオリジネーターと交替する方がすっきりします。

回復策U: 商業施設物件の売却

来夏に「相模原ショツピングセンター」のテナントであるイトーヨーカ堂との賃料改定があるようですが、この物件の賃料も収益ボラティリティの原因になるかもしれません。
仮に改定によって賃料が下がる事になれば、下向きの2段ロケットになりますので、商業施設3物件を纏めて売却してしまう手法もあり得ます。
果たして売却先があるのかは分かりませんが、損失さえ出さなければ、商業施設セクターからの撤退という手段も必要かもしれません。

回復策V: 優良オフィスビルの取得とオフィスビルセクターの強化

前項の商業施設売却と併せて、オフィスビルセクター中心の特徴を出すためには、Aクラスビルの取得が必要となります。
それには、残るオリジネーターに支援策として頼み込む必要がありますが、王子グループが保有しているAクラスビルが狙い目になると思います。
一方的な期待ですが、銀座にある王子ビルは銀座では珍しい大規模Aクラスビルですので、これが取得出来れば市場の反応は良くなりそうです。
また、オフィスビルセクター強化のために、中規模オフィスビルの積極的取得も検討する必要がありますし、上手く取得出来れば収益の底上げも期待出来ます。

回復策W: 他銘柄との合併

オフィスビルセクターを強化するのは時間が掛かりますので、他銘柄と合併する事で一挙に資産を増やす方法も検討に値します。
また、増加した資産を順次組み替える過程で物件売却益を出して、配当金の上積みも可能となりますのでスタディする価値はありそうです。
問題は合併先銘柄ですが、ブランド評価のJREIT市場ではトップリート投資法人のネームには魅力がありますので、低株価銘柄は興味を抱くかもしれません。
更に、超長期戦略で考えれば、中位株価銘柄であっても可能性がない訳ではありませんから、大胆な発想を持つ銘柄を探せれば範囲は広がります。


 以上が私の考える回復策ですが、資産運用会社が実際にどのように考えているかは分か りませんので、単なる個人的期待論です。
TOPRの保有しているオフィスビルはJREITとしては合格ラインを超えて いますので、このまま低迷して存立が危ぶまれるようになるのは惜しい気がします。
一方、投資家にとって、中途半端な策では損失を取り戻せるような株価に戻る可能性も少ないので、何とかしろ!というのが本音だと思いますので、資産運用会社にと っては、まさに熟慮断行が必要になっていると言えると思います。

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