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2007.11.28.
ジョイント・リート投資法人 (8973)

 一時は株価中位まで上昇した銘柄ですが、最近は30万円台の株価に張り付いてしまい低迷状態に入っています。
この主たる理由は、オリジネーターのジョイント・コーポレーション(8874)の株価下落に引き摺られているからです。
オリジネーターの株価下落は、マンション販売の不振という分譲マンション分野の市況によって生じているものなので、JREITとはあまり関係はありませんが、JREITの株価調整局面で、リスクに神経質になっている投資家の売りを誘っているものと考えられます。
JREITのジョイント・リート投資法人(JOR)自体には特に変化はありませんが、今年7月に保有物件の「b6」(渋谷区神宮前の商業店舗ビル)を、取得先のオリジネーター関連ファンド(エルカクエイの設立したSPC)に売り戻した取引に疑念を持たれている面もあります。
この物件は、JORが平成18年10月に(有)マーズ・キャピタル・パートナーズから準共有持分33%を66億円で取得し、僅か1年足らずで売主に売り戻した(売却価格は67.75億円)ものですが、オリジネーターとの取引なので、不審を抱かれた感があります。
私にもこの件ついてマスコミから問い合わせがありましたが、オリジネーターとの取引でも価格に説明が付くのであれば問題がないという回答をしました。
恐らく、この物件はテナントの退去が見込まれていて、JORが取得した時点の利回りが確保出来なくなったために、元所有者に売り戻したものと推測されますが、商業店舗ビル等ではこのような事は起こり得ます。
資産追加取得での失敗はJORに限らずありますので、この事が原因でこれだけ株価が下落したとは思われません。
又、現在のJORの資産運用会社の責任者は、商業施設に強い人材に交替(平成19年1月に社長交替)していますから、補強もされたと考えられます。
従って、JORの株価低迷は、オリジネーターのジョイント・コーポレーションの株価下落が引き金になったとしか考えられません。
証券アナリストの方にJREITと株式の不動産セクターの両方をカバーしている人が多いことも関係していると思われますが、果たしてこの見方が妥当か否かは一概には言えません。
確かに、オリジネーターの業績が悪化すれば、JREIT投資法人と無理な取引を行う事も想定されますが、JORの資産運用会社の人的構成は、JREIT進出のために外部からスカウトされた人材で占められていますので、全てがオリジネーターの思惑によって動くとは限りません。
それでも、今の株価は銘柄の存亡を左右するレベルまで下がっていますから、何らかの対策を施さなければならないと思います。
JORは、一時は株価が順調であったために、他の30万円台銘柄に比べると対応が遅れている感がありますが、既に危機感は抱いているようで、これから何らかの動きが始まるのではないかと予想されます。


低迷脱却の手法

前述の理由からオリジネーターの補強が必要です。 然しながら、新たなオリジネーターを望む銘柄も多く「嫁数人に婿一人」という状況ですし、低迷状態から連れ出してくれるようなオリジネーター候補はあまり居ません。
こういう状況下では実際の選択肢は少なくなりますが、それはJORだけの問題ではなく、低迷銘柄全てに言える事です。
そこで、これら低迷銘柄が現実に採り得る手法とは何かを探ると以下の方法になるのではないかと考えられます。

  1. 大手不動産6社の中からレジデンスに進出していない企業を選び、オリジネーター参画を要請する

    現段階で、レジデンス系REITに進出していない大手デベロッパーは、三菱地所、住友不動産、東急不動産、東京建物の4社です。 このうち住友不動産はJREITへ進出していない唯一の大手デベロッパーですので、ここにはいくつものオファーが入っている可能性もあります。
    他の3社は、オフィスビル又は商業施設セクターに投資する投資法人は設立していますが、レジデンスを投資対象とした投資法人は持っていません。
    これら大手デベロッパーであっても、今から新たな投資法人を設立して物件を集めるとなると、一定の市場評価を得られるような物件の質とポートフォリオNOI利回りを確保する事は難しいと言えます。
    こうなると、既存銘柄に参画するのが近道という事になりますから、条件によっては話が進む可能性があります。
    但し、仮にこれらの大手が参画するとなると、既存銘柄のオリジネーターと資産運用会社は母屋を明け渡す覚悟が必要となります。
    中途半端な提携では市場へのアピール不足になりますから、旧オリジネーターは完全撤退、又は、マイナーポジションに後退する必要があります。
    資産運用会社の人員体制も大幅変更を余儀なくされますので、銘柄側にとっては大きなマイナスになります。
    せっかく設立した投資法人と今まで積み上げてきた運用体制を崩される事にもなるこの手法は、オリジネーターと資産運用会社にはあまりメリットがありません。
    一方、投資家にとっては低迷脱却の可能性を秘めた手法ですので歓迎されると思います。
    「JREITは投資家の為の仕組み」という原則から見れば、この手法には合理性と妥当性がありますが、関係者のそれぞれ立場を考えると、実現にはいくつものハードルがあるように思えます。

  2. 他銘柄との合併

    前項に比べると、比較的取り組み易い手法のように思えますが、実現には技術的な問題と効果に対する不安があります。
    先ず、投資法人の合併には合併比率の算定が難しそうです。
    仮に、50万円前後の株価を付けている銘柄と30万円台の銘柄の合併を想定すると、その時点の投資口価格で合併比率を算定すると、株価の高い方の銘柄が不利になります。(合併発表によって、上位株価銘柄の投資口が下落し、下位銘柄の投資口が上昇すると考えられる)
    次に、30万円台銘柄同士の弱者合併では、効果自体に疑問が残ります。 又、投資法人の合併を監督官庁の金融庁が認めるのかという行政上の課題も残っていて、これを最大のハードルだと考える関係者も居ます。

    「行政側の対応について」
    金融庁が投資法人の合併を認めるか否かは明確ではありませんが、そもそも市場から撤退を余儀なくされるような投資法人の設立を看過したという一端の責任は東証を含めた行政にもあります。
    金融庁は資産運用会社の設立認可権限を通じて投資法人の設立に関与していますから、JREITの粗製乱造の間接的に関わったとも言えなくはありません。
    勿論、護送船団方式の行政指導は過去の遺物ですから、市場淘汰に関する事に行政が予め介入するのは時代錯誤ですので、認可を与えたのは了としても、その後の再編に介入するようになれば、やはり行政側の責任は問われます。
    従って、行政は市場が望むのであればバックアップするという対応が必要ですので、理屈では、行政側は合併を妨げないと考えられます。

  3. 資産運用会社の合併

    投資法人の合併より前に、資産運用会社を合併することで、先ず投資家利益を実現する手法から入る方法もあります。
    資産運用会社が合併し、複数投資法人から資産運用委託を受ける体制に変更する事で、規模の利益を得て、資産運用コストと建物管理コストを圧縮して配当金を上昇させるという手順から進める方法も有力です。
    勿論、資産運用コストを圧縮するためには、同様の資産を持つ投資法人の資産運用会社同士でなくてはなりませんから、金融庁が複数投資法人からの委託要件として定めている資産運用体制の独立性は確保出来ません。
    ここでは、前項で触れた金融庁の考え方がキーポイントになりますが、時限的に緩和するという措置が必要となります。(投資法人合併の前段階として一定期間の共用体制を認めるという方法)
    仮に、2年程度の期間を定めて金融庁が認めるとすれば、この間にコスト圧縮してそれぞれの投資法人の投資口価格を安定させてから投資法人の合を行うという手法が考えられます。

  4. 前項の全てを使った手法

    最も効果の高そうな手法がこれです。 先ず、強力で新たなオリジネーターの主導の下で、資産運用会社を合併させ、新オリジネーターからの出向等により人員の質的強化を図る。
    次に、新たな資産運用体制の下で、新オリジネーターが積極的に関与して資産リストラを行うという手順に進みます。
    この時には、予め存続投資法人を決めておいて、合併比率も投資主総会で了承を得ておく必要があります。
    但し、この手法には強力なリーダーシップと調整力が必要となりますので、前述の大手デベロッパーが担えるか否かが問題となります。
    又、JREITの事情に精通しているという人材も必要となりますので、私の知る限りでは、東京建物が最も近い位置にあるのではないかと考えられます。(東京建物がそのように考えているかは知りませんので単なる想像の範囲です)

    以上が株価低迷銘柄の脱却手法だと考えられます。勿論、これらの応用手法もあり得ますが、低迷銘柄を利用して自らの短期利益を求めるという感覚で参入する企業があるかも知れません。
    又、複雑な手法でもあるのでそこまで頭が回らないという企業もありそうです。 従って、実現性は何とも言えませんが、株価低迷銘柄は、最早自力だけでの再生は難しい状態になっていると思いますので、まさに正念場であり知恵の出し時だとも言えます。


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